2009年12月4日金曜日

2009.12.8 Yan Lauria 冬休み特別講座

画像はStephen Openheimer 「人類の足跡十万年全史」より

 「海中に沈んだ氷期の人類の足跡をたどる」 
 現在生き残っている唯一の人類、ホモ・サピエンス・サピエンスは、今から15万年以上昔にアフリカの大地溝帯で出現し、最終氷期の訪れとともにアフリカ大陸からの脱出に成功します。

険しい山脈、広大な砂漠、先住する旧人類が、彼ら彼女らの行く手を阻みます。
 ホモ・サピエンス・サピエンスの足跡は、大半が大噴火した火山灰に埋もれ、氷期の終焉で海中に沈みましたが、遺伝子解析や過去の気候復元などによって、徐々に明らかになってきました。その足跡をスティーブン・オッペンハイマー「人類の足跡十万年全史」ほかのデータをもとにたどっていきました。

スライドはこちら: 2009_12_8_Yan.ppt
フルログはこちら: 2009_12_8_Yan Lauria 3 ログ.doc
[サマリー]
 氷河期/アイスエイジとよく言われるが、南北に氷床・氷河のある現在も立派な氷河時代/アイスエイジであり、その中で両極以外の大陸にも氷床が広がっていた時期を氷期/Glacial periodと呼ぶ。

 過去500万年をみると、徐々に寒冷化するに従って寒い時期(氷期)と暖かい時期(間氷期)の振れ幅が大きくなっていき、それに対応して人類の祖先の脳容積も大きくなっていく。突然変異と自然淘汰からすると、ニュータイプの登場のたびに脳容積が不連続に増大してもよさそうだが、奇妙なことに、同じタイプの人類の中でも脳容積が増大していく(第1の疑問)。

 石器や火の使用といった文化による群れ淘汰や性淘汰があってこのような連続的な変化が起こるのだろうか? これを「遺伝子の進化と文化の進化の共進化」というらしい。

 次に15万年前から20万年前の間にアフリカに出現した現生人類(ホモ・サピエンス・サピエンス)に注目しよう。現在生きている世界の人々の共通祖先、ミトコンドリア・イブの復元された顔を見ると、アフリカ、インド、ヨーロッパ、東南アジアの人々に共通的な長頭で顔の凹凸が大きい特徴がみられる。それ以前の旧人類の多くもアフリカで出現した。なぜいつもアフリカなんだ?(第2の疑問)

 SFならモノリスの存在で説明できるが、いったい何がモノリスの代わりをしたのだろうか? 

 肌の色とアゴは日照や食生活で比較的短期間に変化してしまうので、顔の上半分に注目しよう。日本人や中国人に多い短頭、顔の凹凸の少ない平面顔、つまり(北方)モンゴロイドとは大きく違ってる。セカンドライフの容姿で顔を日本人らしくしてみると、パラメータを平均より大きくずらさないといけない。つまりモンゴロイドの顔が現生人類の共通的特徴からいかに大きくずれているかが実感できる。

 氷期の中でこのモンゴロイドというニュータイプがどのような環境で生まれ、またたく間に世界でもっとも広まったか、それが第3の疑問であり、今回のセミナーのメインテーマである。

 現生人類が世界に広がっていた最近10万年の気温の変動と海水準の変動を見てみよう。とくに最近1万年の気候が暖かくて安定しており、ちょうど同じタイミングで定住農耕が始まっている。また海水準は今から5~6千年前に現在の水準に安定しており、エジプトなど古代文明の出現時期に符合している。海水準が上昇している時期は大陸氷床が縮小していく時期であり、水文や降水分布も変化していたのだろう。したがって気候の安定と海水準の安定が文明の成立条件なんだろう。15万年以上昔に出現した現生人類が最後の数千年にやっと文明が営めたというのは不思議だ。それ以前に気候と海水準が安定した時期はなかったのだろうか?(第4の疑問)

  そこで気になるのが氷期の最寒冷期である2万年前。この海面が最も低くなった時期に超文明が栄えたであろうことはSF界では常識である。さてそれより以前、今から3万年前の植生分布を見てみよう。大陸氷床もそれほどでもなく森林も大きく広がっていたが、陸続きであるアフリカ、アジア、ヨーロッパの間には砂漠や山岳が存在し、容易には行き来できなかったことが想像できる。先住する旧人類の脅威もあっただろう。女系にのみ伝わるミトコンドリアだけでなく男系にのみ伝わるY染色体の遺伝子系統樹解析によると、出アフリカに成功したのは8.5万年前であり、ヨーロッパに進出できたのは5万年前の前後である。以前の定説は、アフリカからヨーロッパに進出してから知能を発達させてから世界に広まったという欧米人の優越感をくすぶるものだったが、遺伝子解析によってそれが覆されたわけである。

 彼ら/彼女らのうち最も高速移動を誇ったのは海岸採取民、ビーチコーマーたちである。その海岸が養えなくなると次の海岸に移る。大河川にぶつかっても、内陸に向かう仲間と別れて対岸にわたって海岸にこだわる彼らは、水陸両用の高速ビーチバギーのようであり、3万年前には南米の南端にまで到達したらしい。そして今から2万年前、最寒冷期を迎える。その頃のアフリカの植生分布をみると、どれだけ過酷な環境におかれたか想像を絶するものがある。南北の砂漠の拡大で居住可能地が大きく縮小している。これが第2の疑問「なぜいつもアフリカか?」の答えなのだろうか?

 一方東南アジアに目を向けてみると、スンダランドという広大な大陸が広がっていたことが分かる。そこで第3の疑問に立ち戻ろう。同じ現生人類でも世界各地でその外観の特徴が大きく異なる。これは「遺伝子浮動」で説明できる。限られたキャパシティーの中だけで世代交代を続けていくと、ある特徴に偏ってしまう。それは日照や食生活が関係しているものもあれば、まったくの偶然かもしれないし、あるいはそのコミュニティーのアイデンティティーによる性淘汰も関係しているかもしれない。モンゴロイドが現生人類共通の特徴から大きく外れているということは、それだけ隔絶された環境又は文化的つながりの中で世代交代を続けたためと考えざるを得ないだろう。それはアジアの北方の厳しい寒さだというのが通説である。

 ところがモンゴロイゴの出現した時期と地域には大きな謎がある。二万年前には南米アメリカに広がっているというのに、出現したはずのアジアで遺骨が見つかるのは一万年前からであり、二万年前の遺骨がほとんど見つかっていないということだ。それが海面下に沈んだ広大なスンダランドや東シナ海としたらそれは厳しい寒さという通説には合わない。そもそも、同じように最寒冷期に厳しい環境に置かれた欧州で、なぜ短頭・平面顔という遺伝子浮動が起きなかったのだろう。

 まったくふざけた仮説を立てると、最寒冷期に気候と海水準が安定した広大なスンダランドに人気漫画家がいてそのヒーロー/ヒロインが絶大な人気を博し、性淘汰がいっきに進んだというものである。

 しかし彼ら/彼女らの足跡は海中に沈んでいて、その謎はまるで外周のピースを失ってしまったジグソーパズルのようである。